振袖詐欺「ハレノヒ事件」の原因と業界への影響
2025年12月09日
はれのひ事件の概要
篠崎社長による謝罪会見
きものやまなか店主の山中邦彦です。
2018年1月8日 成人の日に「はれのひ」という振袖レンタル業者が、夜逃げ同然に店舗を閉鎖し、このお店で振袖の契約をしたお客様が着付サービスを受けることができず、成人式に出席できない事件が発生しました。
事件発生が当日だったため、着付けが予定されていた会場は大混乱となり、その模様は多くのメディアでも報道されています。
私も日々お客さまと接し、ご両親・おじい様・おばあ様が娘さまの振袖すがたを、どれだけ楽しみにされているかを肌で感じているだけに、被害にあわれた方々の不安や悲しみを思うと、同じ業界にたずさわる者として心が痛みます。
悪質な成人式当日の店舗閉鎖

過去に振袖業者の倒産というのは、いくつもありました。
ただ、今回テレビでも連日取り上げられるほど被害が広がってしまったのは、発生したのが成人式当日だったからです。
私も長い間この仕事をしておりますが、これほど大規模で夜逃げ同然の倒産は聞いたことがありません。
もし「はれのひ」の経営破たんが、少しでも前にわかっていたら、着物は返ってこなかったとしても、成人式に出席できないという最悪の事態だけは避けられたかもしれません。
報道によると、ハレノヒは従業員への給料や取引先への支払いも滞納しており、実質的にはかなり前から経営破綻していたと思われ、非常に悪質な倒産であったと言わざるを得ません。
被害を大きくしたもう一つの理由
被害が広がってしまった原因は、
- 店舗閉鎖が成人式当日だった
- ほとんどの社員が倒産を知らされていなかった
- 全国で8店舗を運営する大きな振袖ショップだった
- 直前まで新規契約の募集をしていた
などが挙げられますが、さらに被害を大きくしてしまったもう一つの原因に「振袖サービスのフルパック化」があります。
フルパック化とは、振袖の契約をしたら、着付け・ヘアメイク・撮影も全てそのお店でやってもらえるというサービスの一元化のことを言います。

かつて母親の時代は、振袖を呉服店で購入しても、着付は自分で美容室を予約し、撮影も自分で写真館を探さないといけないため、成人式を迎えるにあたり、いくつものお店をまわる必要がありました。
しかし最近は、業界内での競争も激しくなってきたため、消費者の利便性を考え、振袖を買ったりレンタルしたら、着付も写真も全てそのお店でやってもらえるという「サービスのワンストップ化」が進んでいます。
きもの離れが進む中、振袖の着用率が昔と変わらないのも、このフルパック化が大きく貢献しています。
そして着付ができない、着物もたためないなど、和服のことをご存じない方でも、このサービスがあることにより安心して成人式を迎えることができました。
ただ、今回の「はれのひ事件」に限って言えば、このフルパック化が裏目となり、振袖は1年以上前に購入していた(レンタルしていた)としても、着物を当日まで業者に預けているため、夜逃げをされてしまうと、もはや打つ手がなくなってしまいます。
振袖詐欺に遭わないようにするには?

これから成人式を迎える方にとって、このような悲惨な騒動を目のあたりにすると、同じような事件に巻き込まれたくないとお考えの方も多いと思います。
ただ残念ながら、振袖詐欺の被害を100%防ぐ方法はありません。
成人式当日だけに限って言えば、振袖を購入したら当日までその着物を自宅で保管し、着付けは信頼のおける別の美容室や着付士にお願いする方法もあります。
しかしこの方法ですと、特典として付いてくる着付サービスが利用できなくなります。
またレンタルの場合、その振袖はあくまで業者の所有物ですので、予約した晴れ着を当日まで自宅で保管することはできません。
さらに倒産という点においては、どんな大企業であっても老舗であっても、潰れる可能性はあります。
ハレノヒ騒動が振袖業界に与えた影響

はれのひ騒動は被害にあわれた消費者だけでなく、業界全体にも大きな影響を与えました。
とくに「はれのひ」と同じように、レンタルが中心の大手・中堅の振袖チェーン店では「おたくの店は大丈夫なのか?」という問い合わせや、キャンセルが殺到し、現場はかなり混乱したと伺いました。
というのも、振袖業界ではほとんどのお店が前金制のため、成人式は1年後であっても、契約した段階でお金は全額支払ってしまっているからです。
早い方ですと、2年後の成人式の予約をしている方もいますので、このような騒動が一度発生してしまうと、業界への信用不安は一気にひろがってしまいます。
はれのひ騒動で思うこと

この騒動が起きてから振袖にたずさわる者の責任がいかに重いか、私自身あらためて考えさせられています。
とくに成人式というイベントは、結婚式と同様、ご家族から祝福を受け、二十歳を祝う大切な儀式であり、娘さまの振袖すがたを見て涙するご両親・祖父母さまの姿を何度も見てきました。
成人式にはそれだけ多くの感動があり、その思い出はお嬢さまの心に刻まれ、次の世代にも受け継がれていきます。
そんな大切なイベントが、今回の騒動によって台無しにされてしまったというのは、同業者として残念であり、2度とこういった事件が起きないことを願うばかりです。
被害にあわれた方々には心よりお見舞い申し上げると共に、もうこれ以上皆さまが傷つくことがないようお祈り申し上げます。
きものやまなか店主 山中邦彦
本記事は2018年2月18日に書かれたものですが、最新情報をふまえ一部加筆・修正しております。
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